Column Photo Edit
Photo of author

レタッチの正解と底なし沼

写真を撮られている皆さんは普段、レタッチはされていますか?

僕はYouTubeで、海外のフォトグラファーがおこなっているレタッチの解説動画をよく観ています。
カメラを始めてもうすぐ6年目になろうとしていますが、1年目と変わらずにレタッチの動画ばかりを観ています。

レタッチとの出会い

最初はLightroomでおこなっていました。
無数の設定項目があり、どのパラメータが写真にどのように変化を及ぼすのかが全く分かりませんでした。
自分なりに調べてみてもしっくりくる事はなく、とにかく青色を強調してみたり、これでもかというくらいシャープにしてみたり彩度を最大にしてみたりしていました。

そんな中で、海外のフォトグラファーの作品に惹かれるようになりました。
日本で多く見られる柔らかい雰囲気の写真とは異なり、明暗がはっきりとしたコントラストの強い写真に魅力を感じました。
それがきっかけでYouTubeで海外フォトグラファーのレタッチ動画を観ることが多くなりました。

人それぞれ好みの色味や表現方法が違うように、写真の仕上がりにも正解はないのだと気づきました。
”自分の好きな風合いを見つけることは、技術を習得することと同じくらい大切なこと”
この時にそれを学べてよかったと今となって思います。
僕の場合は、現実的なのに絵画的にも感じる芸術性を持った表現に惹かれていきました。

試行錯誤の日々

現在はLightroomではなくPhotoshopを使っています。
きっかけは、たまたまWebで見つけたフォトグラファーのポートフォリオサイトにて写真で見た作品の質感に衝撃を受けたことでした。
その作品がPhotoshopで編集されていると知り、「自分もこんな自由な表現ができるかもしれない」と思ったんです。
さらにPhotoshopにはCameraRawという機能があり、それはLightroomと機能が全く同じため、Lightroomより Photoshopを覚えた方が効率的だと考えました。
一つのソフトで全てが完結する、Lightroomでは難しいことも出来る。それが選んだ大きな理由です。

レタッチソフトの選択

Photoshop、Lightroom、Luminar、Capture oneなど、レタッチソフトは数多くあります。
どれを使えばいいのか迷ってしまいますよね。

僕は普段Photoshopを使っていますが、これは単に手に馴染んでいるからです。
Photoshopは人物の肌を綺麗にしたり、物体を足したりと自由自在にできる印象がありますが、そこまでやると写真編集ではなく、写真の創造レベルになってしまいますよね。

レタッチの本質

今はミラーレス、一眼レフ、iPhoneやスマートフォンで、誰でも手軽に写真が撮れるようになりました。
でも、各メーカーや機器によって撮り上がったデータは色合いに違いがありますし、自分の見たままに撮るのはとても難しいものです。

レタッチソフトを使えば、暗く写ってしまったデータも明るくしたり、色を鮮やかにしたり、自分が好きな映画のような風合いにしたりできます。

正解のないレタッチ

レタッチには絶対的な正解がないと考えています。
同じ写真でも、用途や目的によって全く異なる仕上がりが「正解」になることがあるというのが僕なりの答えです。

例えば、結婚式の写真なら柔らかく明るい雰囲気に、ストリート写真なら力強くコントラストを効かせた仕上がりに、といった具合です。SNSに投稿する写真と、大きくプリントして飾る写真では、求められる調整も変わってきます。

そして何より、写真を通して表現したい世界観は人それぞれ。
モノクロームで深い陰影を強調したい人もいれば、パステルカラーで優しい雰囲気を作りたい人もいます。
この多様性こそが、写真の面白さでもあると考えています。

レタッチ観の変化

レタッチをおこなうようになってからは、写真が上手いというのは一体なんなのだろうと考えるようになりました。
技術的な完成度?構図の美しさ?それとも表現の独創性?

考えれば考えるほど、答えは人それぞれなのだと気づきました。
僕の場合、「その場の空気感」を切り取れているかどうかが、写真の上手さを測る基準になりました。

自分が撮りたい写真、見せたい写真、表現したい事。
僕はストリートやスナップばかり撮影していますが、それが一番手軽で、撮影する機会も多いです。
また、旅行も好きなため自分の見たものや日常の世界を写真に残して、”自分の記録”という宝が増えていくような感覚が好きなのだと思いました。

ただの記録ではなくそれを文学のように、見た人が実際に体験していないのに
”世界観やその場を想像できる写真を撮りたい”
それが僕が写真を撮るテーマになっています。
どんなに技術的に完璧なレタッチを施しても、その瞬間の空気感が写真に残っていなければ、心に響く作品にはならないと思っています。

レタッチの学び方

レタッチは難しそうに見えますが、実はそうでもありません。
使える機能の数は相当ありますが、結局使う機能は段々と限られてくるものです。

レタッチを学ぶ方法は主に3つあります:

  • 本で基礎を学ぶ
  • YouTubeで実践的なテクニックを見る
  • 経験豊富な人に直接教わる

プリセットについて

プリセットは憧れのフォトグラファーの色合いや風合いを簡単に再現できる魅力的なツールです。
しかし、ワンクリックで全てが解決するわけではありません。

その理由は単純で、フォトグラファーが撮影した写真と自分の写真では、露光量やホワイトバランスが異なるためです。
素材が違えば、同じ味付けをしても同じには仕上がらないです。

僕のレタッチワークフロー

Photoshop Camera Rawでの基本的な手順をご紹介します

  1. リニアプロファイルを適用して、明暗の差を均一にします
  2. 「自動」ボタンでライト項目を最適化
  3. 彩度と自然な彩度を0に戻す
  4. ジオメトリの自動補正で水平垂直を調整
  5. 4:3にトリミング

この作業はほとんど自動で、1枚あたり1分もかかりません。

元データ

元データはこれです。
白飛びしないよう、黒潰れしないようにするとこんな暗い写真になってしまいます。

リニアプロファイル後

少し明るくなったと思います。
全体的にコントラストをフラットな状態にしています。

ジオメトリ

水平、垂直を整えます。
基本は“自動”ですが、稀に自動でやるとおかしくなる時があります。
その時は手動で補正します。

ベース完成

露出補正の近くにある“自動”を押すと、自動で明るさや彩度もいい感じに整えてくれます。
彩度は後から変更するため、ここでは0に戻して
Photoshopで絵画調に仕上げていきます。

撮影技術の重要性

実は、レタッチの作業時間を大きく左右するのは、撮影時の技術だと最近ようやく気付きました。
適切な露出で撮影できていれば、レタッチの手間は大幅に減ります。

例えば、暗すぎる写真を明るく補正すると、どうしてもノイズが目立ってしまいます。
逆に露出オーバーの写真は、白飛びした部分の情報を取り戻すことができません。

僕の経験では、撮影時にじっくり設定を確認して撮影した写真は、レタッチでの調整がほとんど必要ありませんでした。
特に風景写真では、その場の光を活かして撮影することで、本来の雰囲気をより自然に表現できます。
スナップやストリートでは、なかなかそうもいかないですが刹那的な写真を撮るにしてもやはり設定が適当だとレタッチでは対応しきれなくなりますね。

レタッチよりも大切なこと

レタッチは料理に例えると、素材(撮影した写真)があって初めて活きてきます。
どんなに高度なレタッチ技術があっても、素材の質が良くなければ限界があります。

結局のところ、レタッチの技術を磨くことも大切ですが、撮影の腕を上げることの方が重要です。
たくさん撮影することで、レタッチで補正する必要のない写真が撮れるようになっていきます。

そして、自分なりのレタッチスタイルは、たくさんの写真を撮って編集していく中で自然と見つかってくるものだと僕は考えています。
失敗した写真を無理に復元させるのではなく、意思を持って撮影した写真に、レタッチで自分の味を付けていくようなイメージを持っています。

これからの挑戦

最近、David Osbornというフォトグラファーの芸術性に感銘を受けました。彼の作品は驚くほど豊かな階調を持ち、まるで絵画のような深い精神性を感じさせます。
特に風景写真では、霧に包まれた山々や静かな湖面が、現実とは少し違う別世界のように表現されていて、初めて見た時から強く引き込まれました。

彼の写真を見ていると、額に入れて部屋に飾りたくなります。
そんな感覚を与えられる写真を、いつか僕も撮れるようになりたい。
今まで自分の作品をプリントしたことはありませんでしたが、その目標に向けて、作品を印刷して見返すという新しい挑戦もしてみようと思っています。