大人になれば知っていることが多くなる
全く知らない街を歩くのは最高に楽しい。
冒険に出ているようでなんでも新鮮に見える。
この日は足立区から北区の王子あたりを目指してスナップ撮影をした。
いわゆる下町と言われる場所なんだと思う。
僕は生まれも育ちも東京の東部のため、正直なところ新宿や渋谷といった場所よりも
下町の雰囲気の方が落ち着く。
大阪に行った時も梅田の華やかさよりも十三や天王寺の方が落ち着くと感じた。
下町ではないと思うけどね。
大阪はディープなスポットが多くて何回行っても飽きない。
東京でもそんな場所を探しに行こう。
この日は決して天気は良くなかったが、雨が降りそうで降らないこの曇天は嫌いじゃない。
知っている橋を渡って、見たことがある景色を撮る。
この橋から見える景色をこんな真剣に視たことはなかった。
彼は一体何を想っているのだろう。
物憂げに座り込む彼を見て、僕もまた何かを想う。
曇天の日は光を気にしなくていいから撮影しやすい。
だから嫌いじゃないのだと思う。
なんとなく好きや嫌い。そんなことが僕には多い。
信号機が怪我をしていた。
きっとカメラがなかったらこんな景色も見逃していたと思う。
カメラのモニターを眺めながら、この写真はこうだな。と勝手にテーマをつける。
日常の光景の中でそんな非日常的な事を考えるのも楽しさの一つだと思う。
標識よりフリータイムの案内ほうが目立つ。
なんてことないどうでもいい光景なのに、この日は楽しさもあって不思議と面白く感じた。
近頃はファインアートに感化されているが、撮るのは簡単ではなかった。
マンションを下から眺めたら幾何学模様のように見えるなんてカメラがなかったら一生知ることはなかったと思う。
次々とマンションが建っていって、景色が変わっていくなと感じていたが、これは新たな発見だった。
こういったレトロというか味のある光景は大好きだ。
いつかは無くなってしまうのだろうし、永遠なんてないと思った。
もしかしたら次、訪れた時には無くなっている景色かもしれない。
川沿いを歩いて目的地にひたすら向かう。
人は住んでいるはずなのに、なぜか人の気配を感じない。
もしかしたら僕は独りなのか、そう思ってしまう。
若い頃はバイクに乗りたいと思っていた。
後ろに乗った経験しかないけど、風を切って走る感覚がたまらなく好きだ。
モニターに映るものを見ながら自分が思っていることを考える。
まるで自分に問いかけているような感覚に陥る。
上を見上げたら首都高速。
まるで空を巨大な蛇が這っているかのように見える。
僕は2年ほど前から蛇を飼い始めた。
蛇って怖いイメージを持たれるけど、実際は愛嬌のあるやつだと思うんだ。
だんだんと暗くなっていく。
夜が来る。
その時間になると1日の終わりを感じ始めてなんだか少し寂しい気持ちになる。
僕の性格上、明日以降の予定はあまり考えることができない。
今日を楽しむことだけで頭の中をいっぱいにしたい。
無事に王子駅付近に着いた。
表通りは人も多く、賑わっている。
でも僕はその賑わいより、裏通りの静けさが気になってしまう。
なぜそうなのかはまだ分からない。
“なんとなく好き”の部類に入るのだと思う。
無事にゴールの王子駅に着いた。
ふと空を見たら月が見える。
そしてこの日のスナップも終わりを迎えた。
この日は12kmほど歩いた。
知っている街であっても、見るものが変われば楽しいと思う1日になった。
大人になると知っていること、経験したことが増える。
その経験の中で、やる前からそれが楽しいか楽しくないか判断出来てしまう。
日常に刺激を作れるのは自分しかいないのだと思う。
新しい街は楽しい。
それなら、知っている街を歩くのは退屈なのか?
そんなことはない、というのが僕の答えだった。